
「時計を買うためだけに、日本でトランジットする客がいるんです」——あるヴィンテージ時計専門店の担当者は、そう語ります。誇張ではありません。日本のヴィンテージ腕時計、とりわけ自分の生まれた年に製造された「生まれ年時計」を求めて来日する外国人が、今、静かに増えています。
そしてこの流れの中で見落とされがちなのが、名古屋・大須という選択肢です。大須といえば「名古屋の秋葉原」というイメージが強く、電気街・オタクカルチャーの街として語られることがほとんど。ですが実は、掘り出し物のヴィンテージ時計を探すのに最適な専門店が数多く集まっている街でもあります。
なぜ今、日本のヴィンテージ時計がこんなに人気なのか
ヴィンテージ時計専門店を訪れる外国人客は、この数年で急増しています。ある専門店では、インバウンド客が前年比で約9.6倍に増加したと発表しており、なかでも「生まれ年の時計」を求める客が目立って増えているといいます。来店理由には「日本に来たら行きたい店の一つだった」「海外の時計好きの間で有名だった」という声もあり、SNS経由できっかけを得た客も少なくありません。
外国人客に選ばれるブランドの1位は、圧倒的にセイコー。ある専門店の代表によれば、セイコーの購入数はオメガの2倍、オメガとロレックスを合わせた数よりも多いといいます。人気モデルの価格帯は、グランドセイコーで25万円〜60万円前後、シチズンで10万円〜30万円前後。「日本人のものづくりの魂」が込められた品質へのこだわりを、外国人客は「こんなに良いものがこんなに安く、信じられない」と評しているそうです。
「生まれ年時計」とは何か——ただの中古時計ではない
生まれ年時計とは、自分(または家族)が生まれた年に製造された1本を探して所有するという文化です。単なる中古品の購入とは違い、「自分と同じだけの時を歩んだ時計」を見つけるという、物語性のある楽しみ方が特徴です。
ある専門店の代表は、こう語っています。「生まれ年は誰にとってもスペシャルな年ですから、自分と同じだけの時を歩んだ時計、これを見つけて自分もこれからも頑張っていこうと。両親のために買った生まれ年の時計が引き継がれて、自分の子どもに引き継がれていく、そんなストーリーを考えて買った方も先日いました」。
年代を重ねるほど、生まれ年に合う時計を見つけるのは難しくなっていきます。1990年代製の時計は年々希少になっており、「見つけられるうちに探す」ことが勧められています。
大須は「名古屋の秋葉原」
大須商店街は、名古屋の中心部・栄エリアの南側に広がる、約1,200店舗が軒を連ねる名古屋最大の商店街です。東京の秋葉原、大阪の日本橋と並ぶ「日本三大電気街」の一つに数えられ、1977年に秋葉原から誘致した電気店を中心とした「ラジオセンターアメ横ビル」の開業をきっかけに電気街として発展してきました。
現在ではメイド喫茶やアニメ・ホビーショップなどのサブカルチャーの店も多く、世界中からコスプレイヤーが集まる「世界コスプレサミット」の会場にもなるなど、「オタクの街」としての側面が強く語られます。多国籍グルメや古着店も入り混じる、いわゆる"ごった煮文化"の街として知られています。
ここまでは、多くの旅行ガイドで紹介されている大須の顔です。

実は大須は「隠れた時計の街」でもある
ここからが、あまり知られていない話です。
大須の歴史を辿ると、興味深い記述があります。秋葉原や大阪の日本橋とは異なり、名古屋のこの地域では、家電・パソコン量販店が台頭する以前から「時計・カメラ系量販店」が家電販売を担っていたという記録が残っています。つまり大須は、電気街として名を上げる以前から、時計と縁のある土地だったのです。
その土壌は今も生きています。近年の報道では、大須が貴金属・ブランド品の"買取激戦区"として取り上げられ、「30年前の指輪が元値を上回るケースもある」ほどの活況を呈していると紹介されました。電気街・オタク街というイメージの裏側で、大須は中古品・ヴィンテージ品の売買が根付いた街として発展してきたのです。
秋葉原がホビーショップの集積地として知られるように、大須もまた"愛知のマニア街"として、時計好きが足を運ぶべき場所になっています。
大須で行くべきヴィンテージ時計専門店
大須には、ロレックスやパテック フィリップなどの高級ブランドから、マニアックなアンティークまで幅広く扱う専門店が集まっています。
ウォッチニアン 名古屋大須店:ロレックス、オーデマ・ピゲ、パテック フィリップ、ウブロ、オメガを中心に、新作からヴィンテージ・希少モデルまで豊富に取り扱う
スイートロード名古屋店:創業31年を迎えるヴィンテージ時計専門店で、2024年10月に東海エリア初出店として大須商店街の近くにオープン
ギャラリーレア 名古屋大須店:門前町通り沿いに位置し、ロレックスをはじめとするヴィンテージウォッチの取り扱いに強い
BRAND SHIP:大須2丁目に店を構え、ロレックス、オーデマピゲ、パテックフィリップなど幅広いブランド時計を扱う
このほかにも、アンティークや限定モデルに特化した小規模な専門店、定番から超高級時計まで振り幅広く取り扱う店など、個性の異なる専門店が点在しています。
掘り出し物を探すコツ
大須の時計店の中には、値札に商品情報が少ない店もあります。事前にブランドやモデルについて多少下調べをしておくと、店頭での会話がスムーズになります。
生まれ年時計を探す場合、単に製造年が合っているというだけでなく、状態やムーブメントの状態も重要な判断材料になります。「ヴィンテージとしては綺麗すぎて年季を感じにくい」という個体もあれば、逆に年月を経た味わいを楽しめる個体もあるため、専門店のスタッフに相談しながら選ぶのが確実です。
かっぱ橋の包丁専門店街と同じように、大須も「複数の専門店を回って比較する」楽しみ方ができるのが強みです。1つの通りに個性の異なる店が集まっているため、掘り出し物を探す感覚でぶらぶらと歩き回るのがおすすめです。
まとめ:大須の二つの顔
大須のイメージ | 実際の姿 |
|---|---|
名古屋の秋葉原(電気街・オタク街) | アメ横ビル、サブカルチャーショップ、世界コスプレサミットの舞台 |
見過ごされがちな側面 | ヴィンテージ・生まれ年時計の専門店が集まる、掘り出し物の街 |
名古屋を訪れる予定があるなら、大須は単なる「電気街・オタク街」として通り過ぎるにはもったいない場所です。生まれ年時計という、日本ならではの物語性のある1本を探しに、専門店を巡ってみてはいかがでしょうか。
本記事は、テレビ朝日系ニュース報道、ヴィンテージ時計専門店のプレスリリース・取材記事、および各種公式情報をもとに作成しました。店舗情報・価格帯は変更される場合があるため、訪問前に最新情報をご確認ください。